2014-05-20

カタリ文庫さんとの対談

3周年イベントに”刷りもの”部門で出品していただく、岡崎の隣の幸田町にある「古絵本・古道具の店 カタリ文庫」さんと、3周年にあたって感じていることやこれからのことなど、いろいろと話しました。カタリ文庫×SARANAの対談です。(ちょっと長いです)

 ―まず自己紹介
石川:まず、お互いの自己紹介というか、そういったところから聞いていきたいと思っているのですが、SARANAさんがお店を始めたきっかけってなんだったんでしょう。
杉田:大学時代にお世話になった本屋さんがあって、―それがSARANAっていうところだったんですけど―「この本、いいよ」とか薦めてもらったり、読書会に参加したりしていたんです。その頃から私も将来は、本に関わることができたらいいなと。そのときは、まだ夢の話だったんですけど。それから、私もいろいろ紆余曲折あって―
石川:端折りましたね(笑)
杉田:(笑)結婚して、岡崎に戻ったんです。その時に岡崎高校のとなりに、店舗件住宅を建てるという話になって。それだったら、私もなにかできるんじゃないかと。
石川:それで本屋をやろうと。
杉田:本はずっとやりたかったことですけど、本だけじゃ難しいことはわかっていたので。私は雑貨や文房具も好きだったので、それもやろうと。文具目当てできた高校生がついでに本を見てくれればいいなと思ったんです。
石川:僕の場合は、きっかけはネットオークションでした。武井武雄の刊本作品、というとっても凝った豆本があるんですけど、これが幻の本と言われていて。昔、仕事でイルフ童画館(武井武雄の美術館)で見せてもらったことがあったんですが、それに感動して。でも、手には入らないなと思っていたら、これがオークションであったんです。
杉田:あったんですね。
石川:そこから古本集めがはじまってしまって。武井武雄という人は大正時代に「子供のための絵を描こう」とした一番はじめの人だったんですけど、そのせいか、子供の本、絵本に興味が集中しました。それで僕も紆余曲折あって(笑)いろいろな縁があって古本屋を始めることになりました。
 ―本屋って簡単に始められるの?
石川:ところで、SARANAさんみたいに本屋をやりたい人は他にもいると思うんですけど、簡単にできるものなんですか。そのあたりが謎で(笑)
杉田:私はそのお世話になったお店で取次さんを紹介していただけたので、少量の本でも卸していただけてるんですけど、個人がやろうと思ったら、保証金も高いし、なかなか相手にしてもらえないかもしれないですね。
石川:問題は取次ですよね。そのあたりが、SARANAさんの場合は縁がつながった。
杉田:そうですね。ただ、最近は出版社は限られるけれど、買取で本を卸してくれるところもあるようです。
石川:そういう意味では、古本は古物商の資格さえとってしまえば、そんなに難しくないですからね。最近はいろいろなところで古本買えますから。本にまつわる何かがしたい、なら古本屋っていうのが手っ取り早いかもしれません。
杉田:だから、そういう古本屋さんをやりたいっていう若い人が増えている。
石川:・・・三河では聞いたことないですけど・・・。ブックカフェとかになるのかな。
 本屋の抱える難問
杉田:それは利幅の問題ですね。
石川:そんなに厳しいですか。
杉田:厳しいですね。むしろ今までの本屋はあんな薄い利幅でどうやって回していたんだろうっていうくらい。とにかく雑誌とか大量に入れて、それを売って、回して。そうやってやれていた時代があったっていうことですよね。
石川:僕らはそういういい時代を知らないですからね。
杉田:大きい小さい関係なく、雑誌の売上だけに頼っているような本屋さんは大変なんだろうと思ってます。
石川:そういう意味では、SARANAさんも雑貨を扱っているじゃないですか。僕は本だけじゃだめだから雑貨もやるっていうんじゃなくて、むしろ本が雑貨化してるって考えてるんです。雑貨の一種として本がある。
杉田:確かに、そういう傾向は否めないですね。
石川:雑貨として考えたら、本にもある程度のルックスは必要だと思ってるんです。第一印象で「雑貨としてかわいい」をクリアしないと手にとってもらえない。従来の古本屋に欠けているのはそこの部分で敷居が高すぎると思うんです。
杉田:うーん・・。でも、私はそれはやりたくない・・・。
石川:やりたくないんだ(笑)
杉田:もちろん装丁がよい本は私も惹かれますよ。でも私は「かわいい」じゃなくて、内容がいいとか、物語がいいとか、特に子どもの本は成長過程の中で必要なものを読んで欲しいという気持ちが強いです。絵本は絵の力も大きいとは思いますが。むしろ雑貨としてかわいくない本をおすすめしたい。読んでみたら面白い発見があるかもしれないじゃないですか。かわいい雑貨も好きだけど、真面目な本も読める人でありたいという気持ちが自分の中にあるんですよ。
石川:SARANAさんのお店を見て、高校生とか、もうちょっと下の世代の子どもの読書体験を導くという視点もあるのかなとは思っていました。
杉田:そうですね。選書基準の中に、高校生に読んでほしい本というのがあります・・でも高校生はあんまり来ないんですけどね。いや、来る子は来るんですよ。でも、大多数は来ないですね。イオンの方に素通りしちゃいます。(笑)
石川:みんなイオン好きですもんね。確かにイオンにいけばなんでも十分以上に揃うし、大きい本屋もあるし、そこにはマンガもあるし。
杉田:行けば何でも揃う便利さは理解できます。
石川:小さい店でやる以上は、イオンにないもので勝負するしかない。いや、一応誤解のないように言っておきますけど、大資本の代表としてイオンと言ってるだけですよ。大資本にできないことをやるしかないし、逆にそれができなきゃ存在意義もないなと思うんですよね。
杉田:うちは、私の好きなものを集めていったら結果的に差別化できちゃったという感じです。でも、私の店に来てくれる人はそれがいいっていう人が来てくれている。そして、チェーン店にない物を求めている人は少なくない。
石川:それはよくわかります。思うに、小さな店というのがある種、重要な町の個性なんじゃないかと最近思うんです。大きい店、チェーン店はいろんな町にある。それ自体はインフラとしてはとってもありがたい話なんだけど、その一方でそれだけでは町の個性みたいなものは消されてしまうんじゃないか。
杉田:そうですよね。小さな店は町の顔だと思います。もっと行政も考えて欲しい。小売店は、いろんな面で薄遇されてる気がしますね。
石川:それは従来の商店街活性の補助金とは違うと思うんですよね。それはちょっと古い言葉で言えば町おこしなんですけど。なにか別の言い方ないですかね。
杉田:その町とリンクしないイベントやって、その時だけ人が集まるという従来の方法は、違う気がしているんです。身近な成功例としては岐阜の柳ケ瀬商店街があると思うんですが、「ハロー!やながせ」のような、町の個性的な店を回りながらその良さを再発見して、イベントが終わってからも、もう一度この町に来たいと思えるようなのが理想ですよ。
石川:柳ケ瀬の魅力は行政の力ではなくて、店主さんたちの力によって再活性しているというところにあると思います。小さな店同士がつながっていくことで、大きな力を作っていくことはできると思います。
杉田:そうですね。
 ―私の好きな本
杉田:私は児童文学が好きなんですが、それをちゃんと置いているお店って意外と少ないんですよね。
石川:児童文学ですか。小さい声で言うと、最近あんまり本読んでないんですが、それでも最近で一番よかったと思ったのは、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」でした。あれも名作で、子どものころに読んだはずですけど、読み直したらすごくよかったです。子どものころの解釈とも違っていて、新しい発見がありました。
杉田:大人になったあとで読み直してもいいものは、いいんですよ。
石川:今、中高生って何を読んでるんでしょうね?マンガを除けば・・・ラノベ?
杉田:ラノベかあ。私たちの時代もありましたね。マンガみたいな挿絵が入った本。
石川:角川スニーカー文庫とかですね。読みました。
杉田:ラノベは通る道かもしれないですが、感受性の鋭い時だからこそ、もっと他に読むべき本があると思うんですよね。私は、小学四年生の時に英語の先生にミヒャエル・エンデの「モモ」を紹介してもらって記憶に残っているのですが、児童文学やYA(ヤングアダルト=中高生向け文学の総称)をよく読んだのは大学生になってから。最初に話した、SARANAで紹介してもらってからです。その時にこういうよい本を中高生時代に読んでおけたらよかったのになとすごく思いました。
石川:中高生のころの読書体験か・・・。僕は・・朝日新聞と司馬遼太郎と村上春樹ですね。おっさんみたいなラインナップですけど。
杉田:村上春樹だけ異質ですね。
石川:村上春樹は完全な中二病で。読んでた時は「そうかもしれない、わからない」とか言ってましたよ。文章も翻訳調に変わっちゃって。
杉田:完全にはまってるじゃないですか。
石川:ハマってましたねえ。
―今後やっていきたいこと
杉田:それはやっぱり本の紹介がしたいです。地道に。世の中にいい本っていうのはたくさんあるんですけど、それが埋もれちゃってる。派手じゃなくても、面白い本はいっぱいある。それを知らないのはもったいないと思うんですよね。大人も、子どもも。私もまだまだ知らないよい本を発掘していかなきゃと思う。そして、読んでほしいと思う人に手渡せていけたらと思います。
石川:僕も古本、古道具をやっていて一番感じているのは、いいものが埋もれちゃってる、という感覚です。―中島みゆきじゃないですけど―もっと「地上の星」を見るべきだと思います。一生を懸けていい仕事をした人はいっぱいいるのに、それに目が向けられなさすぎている。特に今は武井武雄と茂田井武の二人の童画家はもっと掘り起こしていきたいし、もっと紹介したいし、それだけの魅力がある、と信じています。
杉田:あとは、「場」として店ができることを考えていきたいです。それは、大型店舗ではできないことだと思うから。うちの店に集う人と人とをつなげる「場」。店を始めたことで、よい人との出会いがたくさんあったから、これからはその人たちがつながるようなことができないかなと。
石川:いいと思います。僕はいろんな人とコラボしてやっていきたい。イベントであったり、展示であったり、こういう対談であったり。一人でできることってどうしても限りがあるし、それこそ「ハロー!やながせ」みたいないくつかのお店が力を合わせて一つのことをやる、ということをしていきたいですね。
杉田:本を扱う店として、いろんな話をしてきましたけど、これからも個人でやっている小さい店だからこそできることをこつこつとやっていけたらいいですね。
石川:そうですね。少しずつでも、よりよい本屋、古本屋、を目指していきたいですね。 

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